「難病」に立ち向かうことに耐えられない時に

ひとりで「難病」に立ち向かう、つまりパートナーや両親、兄弟、子供、がいない人はどれくらいいるのだろうか。私は認知症の母一人。この人がいなくなれば、天涯孤独。ふと寅さんシリーズを見て、浅丘ルリ子が扮する売れない歌手、リリーの話を見て、あまりに自分と重なるので、笑ってしまった。

私はリリーと同じく、旅の空にあることも多く、私の歌(ではないが)を聞いてくれる人もいるのやら。少ない稼ぎのなかから、ありったけのお金を母につぎ込まねばならず、その身勝手さを自分がなぜ背負わねばならないのか時々わからなくなる。今も昔も夢を追いかけて、あがくように孤独に働く女性はごまんといる。寅さんは気楽なものだ。勝手をしても、病気になっても、地の果てまで駆けつけてくれる家族がいる。でもリリーさんと私にはいない。寅さんは結局あたたかい身内を守って、孤独な同志のようなフリをして、実は同志ではない。私が寅さんを全く好きになれないのは、この男のずるさゆえ。だからリリーも寅さんから去って、自分を愛してくれる寿司屋の女房になったのだね。後のシリーズでは彼女はまた流離いの旅に出て、寅さんと再会するのだけど。

リリーは晩年になって、結局、寅さんを看取ったのだろうか。私は恋をしたい、身を焦すような本気の恋をしたい、と言った彼女の願いはどこかでかなったのだろうか。現実には寅さんのような人のいない、孤独に耐えられないル女性に、案外と寅さんシリーズはほろ苦い、甘やかな時間をくれるように思う。とりあえず私は男としての寅さんは遠慮しておきたい。